2015東京・中国映画週間

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    東京・中国映画週間(NPO法人日中映画祭実行委員会主催)が都内で行われた。
    上映された『十二公民』とそれにともなうシンポジウムの模様を紹介する。

     昨年亡くなられた中国映画会の巨匠呉天明監督の名を冠した基金があり、その若手育成プログラムで『十二公民』は作られた。映画や芝居のファンなら名前から想像できるかもしれないが『12人の怒れる男』の翻案である。風景の変化の少ない密室劇で中国ならではの問題を織り込んでいくのは技術を要する監督業だと思われる。若手の徐監督が取り組んだというのも見所であった。

     上映後のシンポジウムの中から印象的だったトピックを文章上で再構成させてもらった。

    李纓監督(司会。日本で活躍する中国人映画監督)から「今の中国は商業的に売れないと制作が出来ない。新人には厳しい。中国の状況はどうか?」との問題提起があった。

    ウー・イェンイェン(中国電影基金呉天明青年電影専項基金代表、呉天明監督のご令嬢)さんが「中国の映画の興行実績は非常に大きく成長している。しかしマーケットが大きいことは必ずしも質の良い作品が多いことを意味しない。日本と同様、撮影所システムで若い人材が育てられていた時代は終わり、若手の育成は急務とされている。そこで私たちは基金を設け、若手監督らに機会を与えている。この前の公募では300人から14人に絞り、さらに5人が選定された。人材を発掘するのはもちろんだが、実際に独り立ちして行くのはその後のサポートも必要。現在、映画会社がスポンサーとして契約してくれた。発掘、育成、そして制作から発表、配給まで見据えて、サポートしていく。商業的な価値一辺倒になりがちな中国のマーケット主導の映画産業にあって、芸術性の高い作品を商業的価値と両立させながら作っていくのが大事だと思う。」と活動紹介と中国映画界の同行を披露された。

    またシュー監督に対しては司会の李さんから「若手監督としての制作環境についてご自身の経験は?」との質問があった。

    シュー・アン監督は「11年間演劇畑で過ごしてきました。若手は当然お金が無いので、自分で脚本を書き、自ら役者もやるという経験を積んできた。私は北京の賑やかなところ、東京で言えば渋谷のような所に住んでいます。仕事がら朝帰りも多く、そんな時に人間ウォッチングをするのが趣味で、例えば道ばたでゲロはいたりしている人たちを見て人生を想像したりします。身近な都市の人間模様も題材として参考になります。

     自分は演劇でヒットが出ました。その劇の映画化の話が持ち上がりました。でも自分が映画でやりたいのは違うものだったので、相談してみたら出資者もそれでよいと言うことになりました。ところが中国の映画には審査が必要なんですが、十二公民の内容は中国の映倫では判断付かず、検察に委ねられました。そうしましたら、OKが出たんですが、注文も付いたんです。まず検察を映画に出すこと。そして検察側が出資することだと言うんです。他社の影響を受けるとこで悩んだんですが、脚本を修正して引き受けることにしました。」と制作に至るエピソードを紹介した。

     また映画制作で配慮していることについては「映画は見る人を選べないが、自分は身近な、たとえば親とか彼女に見てもらうことを念頭に置いている。そして身近な人に自分の作品を好きになってもらうことを考えている。難しいのは資金提供者の価値観が入り込むことで、自分のポリシーとの天秤になることだ。」と付け加えた。

     また、日本側からは桝井省志さん(映画プロデューサー)が「制作会社の育成システムが機能していない。若手育成プログラムを自分も講師となってやったが、脚本からカメラまで、専門家が指導して一つの作品を撮ってもらうまでは手伝ってあげれらるが、プロとして独り立ちするところまでは見てあげられない」と日本の現状を披露した。

     また若い人に期待することとして迎合的な作品を作ってもらいたくないという文脈から「出資者の言うことを聞かないで欲しい」と述べ、笑いを誘っていた。

     若手の育成は日中共に共通の課題と認識されているようだった。

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    仲島 尚 Nakajima, Takashi Carlos 上海情報ステーション代表理事/プロジェクトリーダー 1972年、札幌市生まれ。 趣味は散歩とサンバパーカッション。専門はブラジル研究。 初渡中は93年夏。台湾-香港-昆明-大理-麗江を旅する。 2005年7月に「上海情報ステーション」第1期サイトを立ち上げる。 2006年夏、上海交通大学に短期留学。 上ステではイベントアレンジ、システム関連、映像制作などを担当しています。

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