今年は、人気アニメ作品を中心に日本映画が中国で続々と劇場公開された1年でした。
振り返ってみれば、トータルで11本。うち9本はアニメ作品。これは中国で年間に公開された日本映画としては史上最多の本数です。
日本映画は、中国では1988年と1989年にそれぞれ8作品が公開されたのをピークに、2006年以降は一部の日中合作作品をのぞいて、ごく少数の日本映画しか劇場では公開されてきませんでした。(映画祭やイベントは別枠)2013年、2014年はゼロ、2015年は2本のみ(『STAND BY ME ドラえもん』と『名探偵コナン 業火の向日葵』)でした。
2016年に中国で劇場公開された日本映画11本:
聖闘士星矢、ドラえもん、ドラゴンボール、ちびまる子ちゃん、クレヨンしんちゃん、ワンピース・・・。
中国では「アニメは子供のもの」という意識がまだまだ高い中、大人になった中国の80年代~70年代生まれにとっても馴染みのある日本アニメの新作映画が次々に公開されました年でした。
そして中国でも新たな市場を開拓したのは、12月に公開された『君の名は。』。興行収入は5.59億元に達し、中国国内における日本映画の興行収入最高記録を樹立しました。
公開数日後、劇場に足を運んでみましたが、シネコンではなんと朝から晩まで『君の名は。』一色!中国でもまさに『君の名は。』ブームが到来していました。実際劇場の入りも、観客の反応もとてもよかったです。(※ただし、気になる中国字幕のことは後ほど・・・)
写真:1つの映画館で1日18回というヘビロテ上映。シネコンの劇場をフル活用。
写真:『君の名は。』の中国上映は日本のヒットを受けて急遽年内上映が決まったのか、上映している映画館にもポスター等の宣伝素材がなし。映画館に貼ってあった12月上映作品一覧のシールに、小さなビジュアルを見つけました。
ほかにも、『NARUTO』、『ドラえもん』、『ワンピース』の3作品の興行収入はそれぞれに1億元を突破!(1億元=約16億円強)。『ドラえもん』 はさすがに根強い人気ですが、去年公開された『STAND BY ME ドラえもん』の興行収入が5.31億元と、これまでの日本映画興行収入の最高記録を保持をしていただけに、今年は少しおとなしめ。
中国でも熱狂的なファンの多い『ワンピース』は、公開初日に興行収入2,435万元という好スタートを切り、2億元は堅いとみられていましたが、2週目から失速して最終的には1.07億元という記録でした。
(中国では映画館の「院線」の仕組み上、地方や単館でロングラン上映という形は取れず、一気に公開が打ち切られてゆきます。公開期間は、基本的にどの映画も1ヶ月以内で、短いと1週間過ぎると公開している映画館を探すのが難しくなるということも!)
『寄生獣』は、日本で公開された前後編を一本に編集して中国で公開。実写映画としては日本映画のこれまでの興行収入の記録をぬりかえる4800万元以上に。まさか、『寄生獣』が中国で劇場公開のセンサーシップを通るとはちょっと意外でしたが(グロさ的に難しいと思っていました)、そこは映画2本を1本にまとめる際に、いろいろな苦労があったのかと。
そして、今年の日本映画公開の特徴として、オリジナル音声(中国語字幕)上映が基本となったことがあげられると思います。これまでだと『ドラえもん』などの劇場アニメ映画は、オリジナル音声と中国語吹き替え版が半々くらいの印象でしたが、今年はオリジナル音声版のみ公開という日本映画も多かったようです。(『聖闘士星矢』、『ドラゴンボール』、『ワンピース』、『君の名は。』など)
そうなると、中国語字幕の果たす役割が大きくなりますよね。
ちょっと気になったのは、『君の名は。』の中国語字幕。多分、規制上の問題だと思うのですが、画面にある日本語のすべてに中国語字幕が貼られていて(アルバイトしているレストランのドアの注意書きや、電車の広告など)、それがしゃべりと同じ字体/大きさの字幕で出るので、読む優先順位がつけにくいかなと。ストーリーが展開でケイタイでスクロールする文字がポイントになりますが、それとしゃべりの字幕がどっと一斉に同じサイズで出てくると、多分全部は読み切れないという・・・。『君の名は。』は、なかなか情報量が多い映画なのだなあと改めて。
言葉としては、
「あの世」→「那个世界」(Nàgè shìjiè)
「むすび」→「产灵」(Chǎn líng)
となっていて、ちゃんと意味が伝わってるかなあと。
・・・と思って、ネットを見たら、『君の名は。』に出てきた「产灵って何?」っていう書き込みがけっこうあって(もちろんそれに対して丁寧に解説してくれている人もいて)、こういう言葉の翻訳は難しいですね。
あと、授業の中で出てくる万葉集の歌の解説で、「誰そ彼」から「黄昏」が夕暮れを指す言葉になったというくだりも、中国語で「黄昏」(Huánghūn)はそのままある言葉なので(というか、日本の「たそがれ」という音を、中国の「黄昏」という漢字に当てたということなのでしょうが)、そこに「誰だあれは?」という意味の音が重なるという説明はされてなくて、黄昏が物語のキーポイントになるだけにちょっと残念。でも若い観客たちはそんなことを飛び越えて、ちゃんと物語を理解して共感をしているのですから、作品の持つ力はすごいなと。
そうそう、入れ替わった主人公が、男の子としての自分の一人称を「私、僕、俺・・・」と入れ替えて色々言ってみるところは、会場からくすくす笑いがもれていたので、きっとうまく中国語がはまっていたんでしょうね。残念ながら、全部は覚えられず・・・。DVDになったらまたチェックしてみます。
もうひとつおまけで。
『航海王之黄金城』(ワンピース フィルム ゴールド)の中国語字幕がなかなかよく出来ていたなと。テンポよい展開に、見やすい字幕がうまくついていました。中国で『ワンピース』といえば、最初は『海賊王』(Hǎizéiwáng)の名前で入ってきて、いまでも一般的にはこちらの名前のほうが通りがよかったりもするのですが、実際の正式中国語名は『航海王』(Hánghǎiwáng)。「海賊の王」では中国では問題があったようです。
今回の映画の中で、日本語のセリフで「海軍」という言葉が何度も出てきますが、中国語の字幕で「海軍」と出てきたのは、(私が気がついた範囲では)最初の一度だけ。(カジノは、海軍もなにも関係ないというところ)あとは全て、日本語で「海軍」→中国語字幕「警察」になってました。日本アニメで「海軍」というのは、いろいろ問題があるんでしょうね。
それにしても、
「これが貴様の正義か?」
「自由を勝ち取るぞ!」
こんなセリフの映画を中国の劇場で見れるとは!
2017年も日本映画のこの勢いが維持できるのか。ウォッチングを続けたいと思います。