中国の旅を語るには、鉄道の旅、そして「硬座(硬いシート席)」で夜行列車に乗ること。
一度経験したら心が折れてしまうが、それでこそ中国への真の切符を手に入れたような気持ちになれるという。香港から広州、西安、蘭州を通ってシルクロードへ。筆者の旅には、「硬座」に座る前に、切符を手に入れるという試練が待ち受けていた。
どんなに正しく並んでいても時間が来たら終了する、今まで受けたことのないほど「合理的な」態度で接客される、そこに少しでも空間と時間があれば、ビジネスが発生する。しかしどんな状況にも抜け道はあって、そこで出会う人は人懐こかったり暖かかったり。切符売り場は中国の縮図なのではないかと感じてしまうほど、そこには様々なドラマが展開されている。
「中国に関する報道や批評などを目にした時に外部の人間がイメージする中国という国と、人民の生活には大きな隔たりがある」と感じる筆者。香港に住み、中国を旅することで培われた「中国観」や、鉄道旅でのエピソードを通じて、自分の「中国観」や自分なりの中国との付き合い方を改めて考えさせられた。
「冒険欲」に溢れていた留学時代、もちろん私も「硬座」で夜を明かした一人である。
上海駅へ行くのも初めて、中国で列車に乗るのも初めて、中国に来て半年もたたない自分は、あんなに多くの学生以外の中国の人を間近に見るのも初めてだった。ひまわりの種で埋め尽くされる列車の床と、乗客が持ち込む食べ物の匂い。夏だというのにクーラーはなく、開けっ放しの窓からはどこか湿った空気が流れ込んでくる。真っ暗な車内で人々の息づかいだけが感じられて、道中は決して楽しいものではなかったが、あの旅もまた自分の「中国観」を形成する重要な一部分となっているのかもしれない。